北星余市応援ラジオ・テキスト1 國井さん編 『信頼できる第三者の大人』

現在、動画配信中の『北星余市応援ラジオ』。
https://www.kokanet.org/archives/1615

ありがたいことに多くの皆さんに視聴いただいてます。
ただ90分に及ぶ映像を一気に観るのはけっこうタイヘンというのも事実。
そこで今回、文章として読みやすい形でテキスト化してみました。
全体を5つのパートに分けて投稿していますので、お好きなところをピックアップして読んでいただくことも可能です。
一度、映像をご覧になった方も、この機会に改めて北星余市高校の存続の意義を考えていただければ幸いです。(藤井)
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藤井 : はい、みなさんこんばんは。とまこまいフリースクール検討委員会の藤井です。いつもは「生きづラジオ」というインターネット番組をやってるんですけども、今日はですね、その枠を使って特別編とも言える「北星余市応援ラジオ」というのを配信したいと思います。なぜ「応援」なかというと北星余市高校は現在、閉校の危機を迎えています。「生きづラジオ」1回目のゲストで、ちょうど僕の隣にいる國井さんも北星余市の卒業生なんですけれども、その國井さんからの依頼がありまして、北星余市の存続を目的とした「応援ラジオ」というのを今回配信することになりました。まず今日のゲストさんに自己紹介をお願いしたいと思います。では國井さんからお願いします。

國井 : 北星余市32期の卒業生の國井です。よろしくお願いします。

千葉 : 北星余市高校35期卒業の千葉孝洋です。よろしくお願いします。

出口 : 北星余市高校47期卒業生の母です。出口聡美です。よろしくお願いします。

藤井 : はい、よろしくお願いします。で、僕の方から北星余市の実情について説明したいと思うんですけども。・・・・・暗記できなかったので(笑)、ちょっと紙の資料を持ってきました。カンペを。北星余市高校は元々1965年に設立されて。今の何期生っていうのはここからたぶん数えてるんですよね。それで88年からですね、まず高校中退者を全国から受け入れるという体制に変わりました。全国なので遠くは沖縄から入学者がいるってことです。で、高校中退者の受け入れから始まったんですけれども、それ以降は不登校の子どもとか、最近だと発達障害の子どもも受け入れるようになって。その何でしょう、社会の本流と言われるようなところから外れてしまった子どもたちの受け入れ先として、今は機能している学校です。そんな北星余市ですが、だんだん入学者数が減ってきていて。2016年度、つまり次の4月からの入学生が90名に満たない場合、2018年度の入学を停止するかもしれないという段階。まぁ決定ではないんですけれども、可能性が濃厚になっているという状況です。で、まずはその打開策として次の4月からの入学者数を90名にしたいということで関係者の皆さんが各地で頑張っている。このラジオもその一環なわけですが。それ以前にですね、北星余市という学校が担ってきたものっていうのをきちんと検証しないまま、ただ入学者数が減ったから無くなってしまうっていうのは、それはちょっと社会的に失うものが大きいんじゃないかっていう視点もあるかなーと。その辺も含めてですね、今日は話ができたらって思うんです。それにあたってまず北星余市ってどんなところなのかというのを知ってもらった方がいいと思いますので、今回せっかく卒業生とその親御さんに来てもらってますから、まずはそれぞれのお話を聞いてみたいと思います。では國井さんから。

國井 : はい、えーと32期の卒業、ぼく今35歳なので、卒業が17年前になります。で、この高校中退受け入れが始まったのが1988年なんで、ぼくが3年生のときにちょうど全国受け入れ開始から10年目の年だったんですよね。そういったことを、この前「報道特集」の最後にコメンテーターで出てたコウノさんを見て、すごく思い出したんですけども。ぼくは中学2年生のときに不登校になって。なんで不登校になったかざっと説明すると、えーと・・・まず・・・、えー・・・、ざっとは説明できないことが発覚した(笑)。まぁとにかく、すごくプライドが高かったので、勉強も自分の順位が維持できなくなることが怖かった。それとサッカー部だったんですけど、サッカー部の中でも上手くできなくて。そういう自分のプライドが保てないような状況で人の目を避けるようになりました。自分の評価が下がっていくのを人に見られるのが怖くて、学校行かなくなって。まぁ当時、20年前とかですよね。20年前とかって不登校って言葉でなくて、登校拒否だったと思うんですよね。それで自分が在籍していた中学校史上2人目の登校拒否者になって。だから担任もベテランのすごい先生だったんですけど。やっぱり先生のプライドもあっただろうし。けっこう・・・なかなかタイヘンだったんですよね。それで行ける高校も全然なかったわけではなく、通信とか夜間とかあったんですけど。やっぱり全日制というか、普通に昼間通ってっていう道がよかった、というよりも普通じゃなくなっちゃったというのがショックで、不登校になってもうホントに外に一歩も出られなくなって。家の電話が鳴ったりだとか家のチャイムが鳴ったときに、自分を攻めてくるってわけじゃないですけど「学校行きなさい」みたいな、誰かからそういうこと言われるだろうなみたいな。ビクッとビビるような。

藤井 : そう思っちゃう。

國井 : そうそう、そんな感じの生活だったんで。

藤井 : うん。

國井 : そこから自分は普通じゃない、こんな我慢できないんだったらぼくは絶対ホームレスになると思ってて。で、ホームレスの人とか見ると「仲間だなー」っていうふうに思ってたくらいだったんで。それで行ける学校がなかったんですけど、親が探してきてくれたのが北星余市高校で。ぼくはよく分からずに、全日制で行ける学校がある。それとぼく実家が埼玉なんですけど北海道は地元じゃなくて周りが自分のこと知らない人ばかりのところに行けるから、なんかこれはラッキーだと思って「行く」って決めて。で、事前情報を調べると行きたくなくなっちゃうだろうから全然調べずに行ったら。

藤井 : あえて調べず。

國井 : あえて調べず行ったんですよね。行ったらびっくりなのが、めちゃめちゃ恐そうな不良が大量にいて。「なんじゃここは」っていう(笑)。っていうのがぼくの第一印象。

藤井 : その頃は中退者というか、そういうやんちゃ系の方が多い時期ですか?

國井 : どうでしょうね。ぼくの感触だとやんちゃが5割、不登校が3割、で2割が普通くらいな。

藤井 : うーん。

國井 : やんちゃの方が多いイメージな感じでしたけどね。でもやっぱりぼくみたいな暗ーいのもいっぱいいましたし。

藤井 : うん。

國井 : で、その中学校時代の状況からいっても、先生が不登校のときにぼくの家に尋ねてきていろいろ話をしたりだとか、親と先生とのやり取りを聞いてたりする中で「大人ってみんな自分が良ければいいんだな」というか、そういうかなり大人のことを見下すような感覚があったんですよね。そういう思いがあって。だけど自分の親だけは、両親だけは守ってくれるみたいなふうに思っていたんで。大人でも両親だけは違うなって思ってはいたんですけど。で、北星余市に行って、最初は友だちを作るのも怖くて。でもぼくが行った下宿なんかは暴走族の子とかがいたんですけども、その子とすごい仲良くなって。中学校のときに自分は勉強ができるなと思っていて、そういうプライドがあって不登校に繋がったんですけど、はっきり言ってぼくなんかより暴走族の子の方がすごく勉強ができて。ニュースとか見てても「アメリカが何とかかんとか」とかすごい自分の意見を持ってたりして。衝撃を受けて、暴走族の子に対して。すごいなーとか思って。

藤井 : うん

國井 : あと、ぼくはその不登校っていうのを隠して生きていこうって心に誓っていたので。恥ずかしいことだと。

藤井 : 北星余市でも隠していこうと。

國井 : そうです。みんなぼくの過去を知らないので、何も言わなければ過去を隠して生きていけるじゃないですか。そういうふうに思ってたんですけど、けっこうそれをつらっとこう何でしょう、自分の辛かった過去とか苛められていたとか、いろんな聞かれたくないだろうこととかもけっこう平気で言う人たちが友達とか先輩でいて。それがめちゃめちゃカッコよく思ったんですよね。

藤井 : 自分を開示するのが。

國井 : そうそう、そうです。そこに自分が憧れたというか、こうなりたいっていうか、自分のダメな部分を言った方が、そっちの方がカッコいいんだって気付けたのは北星余市のおかげですよね。

藤井 : ふんふん。

國井 : あとは、下宿生活だったんですけど。下宿生活の中でぼくがルールを破ったことがあって。

藤井 : 下宿のルールを。

國井 : 何だったかな、たしかビデオを観てたんですよ。

藤井 : ホントは観ちゃダメなんですか?

國井 : 当時たしかビデオは観ちゃいけないっていうのがあったんですよ。

藤井 : ビデオはダメ、テレビはいい?

國井 : テレビもダメ。ファミコンとかゲームもダメなところで。

藤井 : 下宿内では。

國井 : はい。でもぼくが卒業してからは平気になったと思うんですけど。

藤井 : うん。

國井 : で、そこで。エッチなやつを観てたんですよ。

千葉 : いかがわしいやつを。

國井 : ただのいかがわしいじゃなくて。不良たちがいるんで。あの「裏」っていう。そんな感じのを。ぼくもよく分からないんですけど。

千葉分からない?

國井えー、分かるんですけど(笑)。それを観ていて。そこに管理人のおっちゃんが来て、何も言わずにビデオを取り出して持っていっちゃったんですよね。

藤井 : あー。

國井 : ぼくと友だちの二人で観ていて。たしか先輩から借りたような気がするんだよな、それ。先輩から借りてたから、やばいと思って。

藤井 : それは、おっちゃんが突然部屋に入って来たんですか?

國井 : 突然、入ってきたんですよ。まぁ今考えると危険な気もするんですけど。突然、部屋に入ってきたんだろうな、たぶんな。そうでないと、あり得ないもんな。

藤井 : 何にしても、そういうことがあり。

國井 : あって。それでまぁぼくがちょっと反抗しちゃって。そういうことが、いろいろ重なって。

藤井 : ええ。

國井 : で、國井を出すって話になったんですよ。

藤井 : 下宿から。

國井 : 下宿から出せって話になって。で、ぼくは出されるほどのことはしてないし。また、ぼくも大人が信じられないというか、「大人はなんかダメだ」というストーリーに。

藤井 : そこはまだ抱えてたんですか。

國井 : 抱えてました。友だちとかはすごくいいけど、先生も一生懸命だけど、でも大人なんてウンコだと。そうやってすごく見下していたんで。

藤井 : ははは。

國井 : それで出すって言われて、ぼくは頑として出ないって言ってたんですよね。それでいろんな先生方が、ぼく一宏(かつひろ)って名前なんですけど、「おい、かつひろ」って。「かつひろ、下宿変わった方がいいぞ」ってみんな言ってくれたんですけど。ぼくはもうそういうときになると、「絶対に出ていかない」とか言うんですよ。

藤井 : 下宿に残りたいと。

國井 : そうそう、先輩との関係性も良くて、それまでそういうのを作ってきていたし、友だちも好きだったから、下宿を出たくなかったんですよね。だけど絶対無理ってのは先生方は分かってたみたいで、なんとか説得しようとぼくのところに入れ替わり立ち代わり来るんですよ。

藤井 : うんうん。

國井 : 担任じゃない人も来るんですけど、ぼくは頑として出ないってやってたら、担任のミワコ先生、ミワコという人がいるんですんけど。名前出していいんですかね?

藤井 : もう出ちゃってます(笑)。

國井 : ははは、そのミワコだけ違って、「分かった、かつひろ」って言って。一緒に管理人にお願いしてくれる形になって。その管理人の部屋に行くんですよね。で、行って。ぼくは管理人のことが嫌いだったので、すごく嫌だったんですけど。お願いしに行った瞬間にミワコが土下座したんですよ。

藤井 : 管理人さんに。

國井 : 管理人さんに、いきなり土下座をして。

千葉最終手段をいきなり

國井 : 何も言わずに。

藤井 : 交渉ではなく。

國井 : 交渉じゃないんですよ。お願いじゃないんですよ。まぁお願いではあったんですけど。最上級のお願いですよ。

藤井 : はいはい。

國井 : そこに行くかみたいな。ぼくは完全にその瞬間に「やっちまった」って思って。

藤井 : そこまでさせてしまった、みたいな。

國井 : そうそうそうそう。やべぇと思って。それでもう管理人が大嫌いだったんですけど、ぼくも即行土下座をして。その後のことは何も覚えてないんですけど。その後、帰ってきて部屋に戻っていったんですけど、その騒ぎを申し訳なく思って。全然ミワコの顔を見れなくて。やべぇ、やっちまったっていう感じで。部屋に入って、ミワコも来て「かつひろ・・・、ダメかもね・・・ごめんね」って言われて。ぼくは「いやいや、違うから。ごめんねじゃないから」って。そこで自分は何か言わなきゃって思って。でも上手く言えなくて。それでもぼくが言ったのは「ミワコはお母さんみたいだね」って。

藤井 : そこで。

國井 : そこで。「お母さんみたいだね」っていうのがひじょうにぼくとしては信頼できる大人っていうのを認識できたというか、「お母さんみたいだね」っていうのがひじょうにしっくりくる表現で。だけどめちゃめちゃダサいなとも思って。だけどものすごいリアリティがある言葉だなと、自分としては。その感覚をきっかけに、あれからちょっと変わったというか。

藤井 : 「大人なんてケッ」って思ってた國井さんがはじめて肉親レベルで信頼できる、第三者の大人に出会えたってことですよね。

國井 : はいはい。はじめて大人に信頼してもらった、繋がりが持てた。それによってかなり自分も元気になったし。でもけっきょくそれで寮を出ることになって、新しい寮に行くことによって、さらに楽しくなるんですけど。ぼくが北星余市のことを思い出すと、そこが原点で友だちが自分のことをさらけ出すというのと、ミワコが土下座したっていうのが、ぼくにとってはそれが大きかった。

藤井 : はい、ありがとうございます。ちょっと今の話を掘り下げていきたいところなんですけど、時間が限られているので後でやるとして。先に他の方の話も聞きたいと思います。

テキスト2 へ続く
https://www.kokanet.org/archives/1662